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大津地方裁判所 昭和60年(む)33号 決定 1985年7月03日

申立人 株式会社 御園交易

主文

滋賀県大津警察署司法警察職員が昭和六〇年二月一五日大津市におの浜三丁目四番四〇号小堀マンシヨン一階一〇一号室申立人事務所においてした写真撮影処分のうち、別紙添付の写真中の物件の写真撮影処分は、いずれもこれを取消す。

申立人のその余の申立を棄却する。

理由

一  本件申立の趣旨は「滋賀県大津警察署司法警察職員が昭和六〇年二月一五日申立人事務所においてした写真撮影処分はこれを取消す。右司法警察職員は前記写真撮影処分による写真、ネガフイルム、複写物等を申立人に提出せよ。」との裁判を求める、というのであり、その理由は申立人作成の昭和六〇年二月二八日付準抗告申立書及び同年三月二日付準抗告の申立理由補充書に各記載のとおりであるから、これを引用するが、要するに滋賀県大津警察署司法警察職員が同年二月一五日、大津市におの浜三丁目四番四〇号小堀マンシヨン一階一〇一号室申立人事務所において、被疑者藤乃原毅に対する覚せい剤取締法違反被疑事件の証拠物を押収した際、右事件と関係のない書類を写真撮影したが、右写真撮影処分は実質的にみて押収と同視できる処分であるにもかかわらず、裁判官の発する令状によることもなく、又申立人の承諾を得ることもなく行われた違法な処分であるから取消されるとともに右写真撮影処分による写真及びネガフイルム等が申立人に提出されねばならない、というのである。

二  一件記録及び当裁判所の事実取調の結果によれば、

1  滋賀県大津警察署司法警察職員ら八名は昭和六〇年二月一五日大津市におの浜三丁目四番四〇号小堀マンシヨン一階一〇一号室申立人事務所に赴き、申立人会社の責任者として同社の社員月岡一夫に大津簡易裁判所裁判官が同月八日に発した「被疑者藤乃原毅に対する覚せい剤取締法違反被疑事件について、右事務所を捜索し、且つ、覚せい剤、覚せい剤が付着していると認められる物、覚せい剤の小分けに用いられたと認められる物、注射器、注射針など使用に関する器具、覚せい剤取引き使用などに関する日記帳、通信文、電話アドレス帳、金銭出納帳、預金通帳及びメモ類、を差し押えることを許可する。」旨の捜索差押許可状を示したうえ、午前九時一五分ころから右月岡一夫の立会いのもとに申立人事務所の捜索を開始し、金銭出納帳、住所録、テレホンリスト、日記帳(表紙灰色)、日記帳(表紙黒色)、元帳、経費明細書各一冊合計七冊を差押え、又、同人から御園交易企業グループ一覧表一枚及び名刺八枚の任意提出を受けたこと、

2  さらに、前記司法警察職員らは右金銭出納帳等経理帳簿類に不備な点があつたためこれを補うべく、月岡一夫及び申立人会社の代表取締役内海健一(同人は午前一〇時ころに申立人事務所に出社していた)の承諾を得て、領収書及び請求書等の写真撮影を行つていたが、ゴルフ場の造成計画平面図等の、別紙添付の写真中の各図面を撮影しようとしたところ、右両名から、右各図面が被疑者藤乃原毅に対する覚せい剤取締法違反被疑事件と何ら関係がないから写真撮影をすべきでない旨強く抗議されたものの、右各図面が右覚せい剤取締法違反被疑事件の資金ルートを解明するために必要である旨の説明をし、なおも、口頭による抗議は受けたが、右各図面についても写真撮影を続け、同月一五日午前一一時四五分ころ、月岡一夫に押収品目録交付書を交付して本件捜索を終えたこと、

3  前記司法警察職員らは、前記のとおり領収書、請求書、図面等の写真撮影をする際に、前記月岡一夫及び内海健一から写真撮影をすることについての同意書等の書面を徴していないこと、

以上の事実を認めることができる。

三1  ところで、捜索差押の際に、捜査機関が写真撮影をすることは必ずしも許されないわけではなく、証拠物の証拠価値をそのまま保存するために証拠物をその発見された場所、発見された状態とともに写真撮影することや、捜索差押手続の適法性を証拠づける目的でその執行状況を写真撮影することは許されるし、又、書類や図面等についてその内容等を確保する目的で写真撮影する場合にも捜索差押許可状に記載されている書類や図面等そのものやこれらを補足、補充するものを写真撮影するなど限定された場合には許されるものというべきであるが、右の範囲を超えて写真撮影することは、捜索差押の目的物とされていない物件をも捜索差押したのと実質的に異ならない結果となるので許されず、任意捜査として所有者らの承諾のもとに写真撮影されたものでない限り、刑事訴訟法四三〇条一項又は二項に基き写真撮影処分の取消しを求めることができるものと解するのが相当である。

2  そこで、滋賀県大津警察署司法警察職員が昭和六〇年二月一五日大津市におの浜三丁目四番四〇号小堀マンシヨン一階一〇一号室申立人事務所においてした写真撮影について検討するに、前記認定のとおり、領収書及び請求書等別紙添付の写真中の各書類を除くその余の各書類については本件捜索差押許可状に記載されている物件を補足、補充するものとして写真撮影が許されるものであり、且つ申立人会社の代表取締役内海健一の同意のもとに写真撮影されたことが明らかであるから、右写真撮影は、適法であるものといえるけれども、別紙添付の写真中の各書類の写真撮影については、本件捜索差押許可状に記載されている物件を補足、補充するものでもなく、又、責任者として立会つた申立人会社の社員月岡一夫や、のちに右会社事務所に出社した右内海健一が写真撮影をすべきでない旨抗議しており、且つ写真撮影をすることについての同意書等の書面も作成されておらず、申立人の真意による承諾があつたものとは認められないから、右写真撮影処分は違法であるといわざるをえない。

したがつて、本件の写真撮影のうち、別紙添付の写真中の各書類を除くその余の各書類の写真撮影処分の取消を求める申立は、これを棄却し別紙添付の写真中の各書類の写真撮影処分は、これを取消すのが相当である。

3  申立人はさらに、本件の写真撮影による写真及びネガフイルム等を申立人に提出する旨の裁判を求めるので、この点について検討する。

まず、右の申立のうち、別紙添付の写真中の各書類を除くその余の各書類の写真撮影に関する部分については、右写真撮影は、前記のとおり適法であるから、理由がなく、これを棄却するのが相当である。

次に、申立人の申立のうち、別紙添付の写真中の各書類の写真撮影による写真及びネガフイルム等を申立人に提出する旨の裁判を求める部分については、刑事訴訟法四三〇条が「……押収……処分の取消又は変更を請求することができる。」と規定するにとどまり、又、同法四三二条によつて準用する同法四二六条二項は、「必要がある場合には、更に裁判をしなければならない。」と規定するけれども、右規定が申立人の求める右裁判をすることまでをも予定する趣旨のものとは解されないうえ、申立人に別紙添付写真中の各書類を写真撮影した各写真及びネガフイルム等の所有権等本権があるわけでもないから、右申立は理由がなく、これを棄却するのが相当である。

四  よつて、本件準抗告は、別紙添付の写真中の物件の写真撮影処分の取消を求める限度で理由があり、その余は理由がないから、刑事訴訟法四三二条、四二六条二項、一項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 川口公隆 佐野正幸 楠井敏郎)

別紙(略)

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